「殺人の門」


殺人の門
殺人の門
著者:東野 圭吾
出版社: 角川書店(単行本)
発売日: 2009/05


人気の作家であるようなので、早速読んでみました。
良いのか悪いのか、ちょっと評価に迷います・・・


裕福な家庭に育った男が、祖母の死に面したこと、悪い友達を持ったことなどから、人生そのものが悪いほうへ悪いほうへと引きずられていく。
幼い頃芽吹いた殺人への興味を掻き立てられながら・・・


といったようなストーリーなのですが。


テーマやストーリーとしてはなかなか興味深いのですが、展開がいまいちよろしくない。
主人公の男が人生の危機に陥るたびにうまく物事が運ばず、人を恨み、殺意を持つまでに至るいきさつや心情に、全然納得がいきません。
読んでいて始終思うのは、主人公の行動や考え方に対して、なぜそう考えるのだろう?どういう気持ちがあるからそう行動するのか?といったような疑問符ばかりで、読中ものすごい不愉快さと余りの主人公の馬鹿さ加減に苛々まで募るしまつ。
全く主人公に共感できず、何度途中放棄しようと思ったことか。


こういう感想というか気持ちを引き起こすように、あえてこのような書き方をしているのであれば、その演出は当たっているのでしょうが、それにしても何が言いたいのかよくわかりません。
最後の展開も、何で今頃そういう展開なのかなあ〜と、放り出さずにずっと一生懸命読んできたのに、なんだか馬鹿にされた気分でした。


力量がないというわけでは、決してないと思いますが・・・何が問題なのでしょう。
ある意味不思議な作家ですね。
この作者のどういうところが世間に認められているのでしょうか?純粋に不思議です。
こういうのが好みの問題ということなのでしょうか???


まだ1冊目ですので、他の本も読んでみようと思います。

「おはよう寄生虫さん」


おはよう寄生虫さん―世にも不思議な生きものの話
おはよう寄生虫さん―世にも不思議な生きものの話
著者: 亀谷了
出版社: 講談社(文庫)
発売日: 1996/10


川原泉の著書で紹介されていたのを読んでから、ず〜っと読みたかった本です。
図書館で借りてきてしばらく暖めていたら、その時読み始めていた倉知淳作の猫丸先輩シリーズの一冊に、かの猫丸先輩が目黒の寄生虫博物館に行き、そこでいつもながらの毒舌でわーぎゃー言いながら見学し、途中館内で起きた事件を解決をするという話が乗っていました。
これはもう早速読まずばなるまいと、ページを開いたのですが・・・


ずっと気になっていた“世界でただひとつの”「目黒寄生虫博物館」でしたが、一言で言うと、“グロすぎる・・・(ーー;)”
全体として話はすごく面白いので、最初のうちこそ興に乗ってガンガン読んでいましたが、だんだん顔色が悪くなるのが自分でもわかりました。
特に昆虫が好きとか気持ちの悪い話OKな人以外は、くれぐれもいっぺんに読まずに、少しづつ読み進めて下さい。
一気に読んで亀谷ワールドに嵌り込むと、まず、ご飯が食べられないですから・・・


と、のっけから脅かしてしまいましたが、何はともあれ、作品を通じて感じるこの著者の寄生虫に対する熱意、と言うよりもはや愛情には、圧倒的な感慨を覚えます。
寄生虫の描写は、愛情が行き過ぎて?凄まじいですが、文章は非常に面白いです。
著者特有の一風変わったユーモア?の目を通して描かれていて、
「いや、そう思うのはあなただけよ。」とか、
「ぎえぇ〜普通はそこまでしないよ〜。」とか、突っ込みどころは満載です。
軽めの話を紹介すると、知人に尻からサナダムシが出たと言う話を聞くと、トイレでうんうんやってサナダムシを出している人から“電話中継で”今、何センチ出たとか、もう一メートルになるとか聞いているんです。
内心で「こんなに長いならぜひ(博物館の)サンプルに貰おう」とかホクホクしながら・・・
またある時は、イタリア旅行中、その昔寄生虫を食べた地方があると聞きつけ、地元の人でも食べないものを食しながら、微に入り細に渡り食している寄生虫の観察説明。
こういうのを本当の学者と言うんでしょうか?!
語られる話も、寄生虫の生態も常識では考えられない世界ですが、その研究者がさらに上を行く!!
いかんせん素人には追いて行けません。
本を読む前は、一度「目黒寄生虫博物館」に行ってみたいと思っていましたが、読後は「もう・・・いいか(十分堪能した・・・)。」
勇気のある人、興味のある人、体力のある人はぜひどうぞ。

SELENA 「DREAMING OF YOU」


DREAMING OF YOU
DREAMING OF YOU
歌: Selena
発売元: EMI Latin
発売日: 1995


久々の書き込みなので、元来の趣旨である本について書き始めるべきだったのですが、家の整理をしていたら古いCDがたくさん見つかりました。
その中で発見したのがこれ。
学生時代よく聞いたんですよね〜。
今聞いても素敵な曲ばかりですが、アルバム題名にもなっている「DREAMING OF YOU」なんかは、聴く側が年取ったせいか、歌詞があまりにも可愛過ぎるわ〜と思ってしまいました。
昔いいなと思った曲がやっぱり今でも素敵に思え、「I COULD FALL IN LOVE WITH YOU」、「COMO LA FLOR」、「TORO RELAJO」、「 BIDI BIDI BOM BOM」などがお気に入りです。(アマゾンのページでは視聴できますのでぜひ聞いてみてくださいね。)
曲も素敵ですが、やはりSelenaといって思い出すのは、彼女の悲劇的な死ですね。
たしか、「I COULD FALL IN LOVE WITH YOU」や、「DREAMING OF YOU」などが売れ始めている頃で、最近良く名前を聞くなあと思っていたら、ある日のテレビ画面で、殺人事件のニュース。
何気なく見ているうちに被害者があのSelenaらしいとわかって「・・・OH MY GOD!」。
しかも当時同じ年。
曲を知って、CDでも買おうかなと思っていた時だったので、「えーっ?!」という驚きが非常に強かったのを今でも覚えています。
しかも逆恨みしたファンクラブ会長に殺されるなんて、なんという悲劇でしょうか。
このCDはその彼女の死後発売されたものですが、選曲としては結構贅沢で、英語バージョンも、ラテンの女王である彼女ならではのノリの良いスペイン語の魅力もたっぷりです。

「頭がいい人、悪い人の仕事術」


頭がいい人、悪い人の仕事術
頭がいい人、悪い人の仕事術
著者: ブライアン トレーシー, Brian Tracy
出版社: アスコム
発売日: 2005/03

アメリカで最も有名な経営コンサルタント、ブライアン・トレーシーが、だれもが身に覚えのある仕事術をバッサリ斬り捨て、真の仕事術を提案する、まさに目からウロコの新しい仕事術本です。ブライアンいわく「成功する人生を手に入れるのも、入れないのもあなたの自由である」。だれもが実践できる方法で、いかに成功し、価値ある人生を手に入れるかを指南する、これは「人生に成功するための仕事術」本です!

6月1日の社内異動のため、忙しい一ヵ月半でした・・・
これまでとは仕事の進め方スタイルが根本的に違うため、なんだか慣れなくて迷っているときに見つけたのがこの本。
書かれていることは何気ないことで、言わば当たり前のことなのですが、自信喪失しかけていた私には、そう、それでいいんだよと後押ししてくれるような気がして、すごく勇気付けられました。
やっぱり仕事は、より合理的に、効果的に、ですよね。


本書曰く、
つきあいも仕事のうち!は大間違い。
大事なのは速さじゃないんだよ!は大間違い。
夢は心の中にしまっておくものだ!は大間違い。
片付けるヒマがあったら仕事しろ!は大間違い。
大小にかかわらず、すべての仕事に全力を注げ!は大間違い。
格好つけてたって仕事ははかどらない!は大間違い。
仕事を人任せにするな!は大間違い。
失敗の原因を徹底的に分析しろ!は大間違い。
成功するには情報ばかり追いかけていてはだめだ!は大間違い。
石の上にも三年、継続は力なり!は大間違い。


これらに、それぞれ具体的な仕事法を伝授という形をとっています。
とりあえず仕事が速くできる方法とか、無駄な電話に付き合わずに済む方法、仕事の優先順位を決定する方法など、誰にも実践可能な、基本的なことではありますが、こういう単純なことですら、毎日の仕事の様子を見ると守られていない・実践されていないことが多く見受けられます。
本書の冒頭でも、「普段の何気ない仕事の仕方に、その人の知性は現れる。」とのドキッとするお言葉。
切り口はもちろんですが、書き方もズバッと分かりやすいので、本当に合理的で無駄が無い。
最初はなんだか薄い本だと思ったのですが、だらだらと説明してもしょうがないし、ポイントだけならこれで十分なのかもしれません。
それぐらい端的なので文章の勉強にもなりますね。
異動で新しい職場に移ったことを機会にもう一度自分の仕事スタイルを見つめなおしてみようかな・・・などと思う今日この頃です。

GUN THAT WON THE WEST & WINCHESTER MYSTERY HOUSE


中西部開拓の象徴であったウィンチェスター銃のコネチカット州にある最後の工場が3月一杯で閉鎖されました。
140年近い歴史のある銃工場で、銃の存在への賛否両論はあれどやはり一つの歴史を築いてきた存在と言う事もあり、少し前まではニュースで触れられている事が多かったようです。
昔、州警察(郡警察だったかも?)の見学で実際に見たウィンチェスター銃は思っていたよりも大きく重く(なんと持たせてくれた!もちろん弾は込めてありません。)、使用する弾も大きくて、対人間用とはとても思えない、というより思いたくない代物でした。
日本の警察官が持っているような銃身の短い銃や、映画の中の現実的でない銃しか知らなかった為、その大きさと重さに結構ショックを感じた事を覚えています。
また、あの有名なウィンチェスター館一族関連だとのイメージも強いですね。


最近はマンガの「ゴーストハント」等を読まれてご存知の方も増えたかと思いますが、ウィンチェスター館とはウィンチェスター銃を開発したウィンチェスター社オーナー夫人のサラが夫と娘の死後、「家族の悲劇はウィンチェスター銃の犠牲者の呪いである。あなたが生き続ける為には家を建築し続けなければならない。」と霊媒師に言われた事から、カリフォルニア州サンノゼに、その後82歳で亡くなるまでの38年間に渡り昼夜増築を続けたビクトリア様式の豪邸です。
以前訪れたときのツアーの説明では、部屋数160部屋、窓数10,000、ドア数2,000、天窓数 52、暖炉数47、寝室数40、階段数42、浴室数13、台所数6、地下室2という内容で、巨大で不可思議な屋敷。
開けると壁になっているドア、どこにつづいているか分からない階段、天井につづく階段、交霊を行なったといわれる部屋など、普通では考えられない奇妙な構造で見ているだけでこちらの頭がおかしくなりそうでした。
Maurits Cornelis Escher, マウリッツ・コルネリス・エッシャーの絵のように、ちょっと見には余り奇抜さが分らないけれど、よ〜く見るとやっぱりおかしい。
本人さえ、地図が無ければ歩けない家の中、使用人たちも主がどこにいるのか分らず、時折ふいっと姿を現したり同様に消えたり、人の話を聞いていたりで、悪口や噂話が過ぎて辞めさせられた使用人もたくさんいたらしい。
悪霊から逃れる為と言い13という数にこだわったり、異様な屋敷を建築続ける傍ら、高価なガラスや金銀製品、シャンデリアなど金に糸目をつけない贅沢な品をふんだんに使用し、当時としては画期的な水道設備、熱暖房設備、エレベーター、ガス灯などのシステムが組み込まれている。しかもそれらはボタン一つで作動したようです。
現在でこそ、周囲には住宅が並んでいる土地ですが、当時の何も無い丘の上に、あれよあれよと言う間に、7階建の高い塔を持つ家が聳え立ったら、真に異様な家の中を知らずとも、見栄えだけでも十分に異様なのではないでしょうか。


ウィンチェスター家を恨む霊たちの存在をつねに意識して、狂気ともいえる増築作業を続けたと言われるサラ。
銃そのものが世の中から無くなったわけではないし、ウィンチェスターの名の付いた銃もアメリカ国外では生産が続けられるようですが、国内のウィンチェスター銃工場完全閉鎖にあたり、何か感慨を抱いているだろうかと思わずにはいられない、そんなニュースでした。


WINCHESTER MSYTERY HOUSE HOME PAGE

Photo: Winchester Mystery House, San Jose, CA.

THE HAND THAT ROCKS THE CRADLE, ゆりかごを揺らす手

ゆりかごを揺らす手
THE HAND THAT ROCKS THE CRADLE, ゆりかごを揺らす手, 1992/アメリ



STORY
平凡な家庭を持つクレアは、妊娠検査の為訪れた産婦人科医でセクハラに遭い、酷く傷つけられたものの夫の勧めもあり医師を告訴する事になった。ところが、事が公になりマスコミの執拗な追いかけと近隣の噂など批判が熾烈を極め、社会的地位の失墜に悩んだ医師は裁判を目前に自殺してしまう。医師の死を終結に、クレアの日常は平穏に戻り彼女は無事出産を迎えたが、セクハラで訴えられた産婦人科医の妻は、事件と裁判沙汰そして夫の死と相次ぐストレスから、身籠っていた子供を流産していた。全てを失った女は、原因となった夫を訴えた女へ復讐を果たすため、彼女の家族へベビーシッターとして雇われる事に成功した・・・・


STAFF
監督: Curtis Hanson, カーティス・ハンソン 
製作: David Madden, デヴィッド・マッデン 
総指揮: Ted Field, テッド・フィールド 
Rick Jaffa, リック・ジャッファ 
Robert W. Cort, ロバート・W・コート 
脚本: Amanda Silver, アマンダ・シルヴァー 
撮影: Robert Elswit, ロバート・エルスウィット 
音楽: Graeme Revell, グレーム・レヴェル 
 

CAST
Annabella Sciorra, アナベラ・シオラ --- Claire Bartel, クレア・バーテル
Rebecca De Mornay, レベッカ・デ・モーネイ --- Mrs. Mott/Peyton Flanders, モット夫人/ペイトン・フランダース
Matt McCoy, マット・マッコイ --- Michael Bartel, マイケル・バーテル
Ernie Hudson, アーニー・ハドソン --- Solomon, ソロモン
Julianne Moore, ジュリアン・ムーア --- Marlene Craven, マーリーン・クレイブン
Madeline Zima, マデリーン・ジーマ --- Emma Bartel, エマ・バーテル
John de Lancie, ジョン・デ・ランシー --- Dr. Victor Mott, モット医師
Mitchell Laurance, ミッチェル・ローランス --- Lawyer, 弁護士


懐かしいドラマを再放送していました。
2時間ドラマにぴったりな傑作サスペンス。
復讐する女役のレベッカ・デ・モーネイが素晴らしく光っている作品なのですが、個人的には、喘息発作を起こしているアナベラ・シオラがとっても怖かったのがとても印象的(笑)。
はっきり言って単にストーリーだけを追うと、非情に凡作なのですが、物語り最初からひしひしと感じる第3者の目的な気味悪さが全体を覆っていて、登場人物たちの一挙手一投足がひじょうに意味深長でところどころで印象に残る演出がされています。
見終わった後に残るこのなんとな〜く不気味な余韻が堪らなく魅力的な作品です。
思うに思わせぶりなタイトルと、鬼気迫る迫力演技のレベッカ・デ・モーネイの魅力、そして彼女演じるペイトンの異常な復讐への信念が微妙に絡み合ってスリリングな世界を作り上げているのでしょう。
タイトルはアメリカのことわざの「The hand that rocks the cradle is the hand that rules the world.」から取られていて、直訳すると、「ゆりかごを揺らす手は世界を支配する」、つまり、子供を育てる母親の力は偉大なのだという意味合いなのですが。
このドラマの演出を見ると、単純に
ゆりかごを揺らす手=母親=子供を流産した女
ゆりかご=クレアの家族
偉大だ=子供のために復讐に走る
と取っていいかどうか迷います。
逆恨みだとは言え、流産したのはあの女のせいだと復讐に走るペイトンと言う役柄も理解は出来ますが、セクハラを受け医師を訴えた女性も、たいした事ではなかったのにいちいち大騒ぎして後は知らん顔する女というような見方も出来る演出だし、その夫も優しいとも言えるけれどそこまでいくと単なる優柔不断だと言える設定。
そこで見るほうは勘ぐって、
ゆりかごを揺らす手=運命・悪魔・神様
ゆりかご=登場人物全員・人間
偉大だ=運命には逆らえない・人間の原罪は業であり逃れられない
等もありかと、あれこれ考えてしまうのです。
「どこにでもある」ドラマを「大変印象的」なドラマに変えてしまった、この演出が憎いなあと。
事実、純然たる被害者であるはずのクレアに感情移入できないどころか、なんか嫌な女という感情を抱かずにはいられません。
正しいと思うことを主張する事、間違いを正そうとする事、自分の権利を主張する事、これらは一見間違っている事ではありません。
でも、これらは正当性があるからと言ってゴリ押しすべき物ではないし、時と場合を鑑みて譲るべき所は譲り、上手に押し出していかなければならない、非常にデリケートで難しいものなのです。
昨今の日本は、自分の権利を主張する事ばかりが流行ってこのバランスがうまく取れず、自己主張ではなく単なる我侭や横暴となってしまっているケースが頻発していますが、自己の権利は出来るだけ主張するのが当然のアメリカでこういうメッセージのあるドラマを見るとなんだか不思議な感じがします。
原作はどんな本なのか、機会があったらぜひ読んでみたいです。
状況設定やストーリーなど、基本的には「お約束」な作りではありますが、何かがきらりと光るドラマ。オススメ!

「THE DEEP END OF THE OCEAN」 青く深く沈んで

The Deep End of the Ocean
THE DEEP END OF THE OCEAN
著者: Jacquelyn Mitchard、ジャクリーン・ミチャード
出版社: Signet (Mm)
発売日: 1999/02
日本語版: 青く深く沈んで 【Amazon】 【bk1】

ベスは、7歳になる長男に3歳の次男ベンをたのみ、チェックインをすませた。数分後、ホテルのロビーからベンが消えていた。誘拐されたのか? 捜査もむなしくベスの家族に地獄の時間が流れた。長男の苦しい夢は何を意味するのか? 9年後のある夏の日、ひとりの少年が庭の芝刈りのアルバイトのためにベスを訪問した。彼はベンに似ていた…。家族の愛の復権と再生を描く感動の長編。

最初手に取ったときは単なる涙もののホームドラマかと高を括っていたのですが、読み終えてみたらなかなかの力作でした。
最近では日本でも子供を狙った犯罪があとを絶たず、本書のようなシチュエーションも十分ありえそうですが、子供の誘拐事件の多発する(しかもほとんど未解決)アメリカではかなり深刻な社会問題です。
警察の手に拠っても、広大な国土に日本のようなご近所意識のないアメリカの風土では、一人の人間を探そうとするのは非常に困難。
そういう背景を考えても、子供を失くした(しかも自らの過失で)女性の途方に暮れる絶望が痛いほどに伝わってきて、読みながらも胸が詰まります。
家族の一員の失踪によって、次第にバラバラになっていく家族の関係も大変リアルな緊迫感で描かれています。
この本が他作と決定的に違い、そして素晴らしい作品たり得ているのは、主題が失踪した子供の発見ではなく、子供が無事発見され、家族の元に戻り、その後の生活ぶりが描かれていること。
ここがこの作品の核の部分です。
自分の不注意が原因だと自責の念を抱く母親、その心情を理解しながらもだんだんすれ違っていく気持ちに焦り憤る父、自分が手を離したために弟が消えたことを誰にも言えず悩む長男、父母の悲しみを理解し自分と言う存在で癒してあげたいのに自分の存在を忘れてしまったかのような両親に悲しみと不満を抱く娘、そして、自分の愛した妻の連れ子と信じ、妻亡き後も継息子を愛する男。
それぞれが愛する者のために、悩み、傷つき、誰が正しいとも間違っているとも言い切ることはできない。
そして時間は無情に流れ、毎日をそれでも人は生きていかなければならない・・・そんなやるせない情景が大変リアルに語られています。
ストーリーは母親の視点に立って描かれていますが、登場人物の誰の視点をとっても、なかなかに考えさせられる事柄の多いストーリーです。
愛とは、家族とは一体なんなのか、もう一度考え直してしまいます。
タイトルの「深い海の底」もそこには一体何が隠されているのかと考えるとすごく意味深ですね。
この作品は、ミシェル・ファイファーが主人公のベス役で映画化されていますが、映画では通り一遍の事しかなぞっていないので、この作品の良さが出し切れていないようです。
時間のある方にはぜひ読書を、忙しい方には映画をお勧めします。


DVD: THE DEEP END OF THE OCEAN
ジャクリーン・ミチャード: 青く深く沈んで